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奈良地方裁判所 昭和54年(ワ)372号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判旨】

一請求原因1の事実および3の(二)のうち別件訴訟係属、判決確定の事実は当事者間に争いがなく、被告奈良信用金庫、同田畑が原告主張の配当金を受領した事実は、同被告らとの間で争いのないところ、右事実に<証拠>を総合すれば、以下の事実を認めることができる。

1 本件土地は、もと、登記簿上久保田宅治の所有であり、いずれも債権者を郡山信用金庫(のち、合併により被告奈良信用金庫となる。)、債務者を久保田伸一、極度額を金一〇〇万円とする順位一、二番の根抵当権設定登記及び債権者を被告田畑利次、債務者を久保田宅治、債権額を金二〇〇万円とする順位三番の抵当権設定登記がなされていた。

2 被告田畑は、前記被担保債権が弁済されなかつたため、昭和四五年九月八日、前記抵当権に基づく本件不動産の競売を申立て、右は奈良地方裁判所昭和四五年(ケ)第三一号不動産競売事件として係属し、同月一〇日、競売開始決定がなされた。

3 右事件担当裁判官は、同年一〇月五日、同裁判所所属執行官福井忠清に対し、本件土地につき賃貸借取調命令を発し、同執行官は、同月八日現地に臨み、久保田伸一の案内により、本件土地は概ね別紙図面表示イロハニホヘトチリイの各点を順次結んだ直線により囲まれた第一土地に該当するものと判断し、右土地につき賃貸借の有無を調査し、翌日付で左記のとおり、取調結果の報告をなした。

右調査の結果賃貸借の関係は何もありません。

但し右宅地入口より向つて正面北側に現在既に外装工事の既マにマに終了した(目下内部工事中。)約三十五坪位と思われる家屋が建築されていて、その家屋について前記宅地所有者久保田宅治の長男伸一は本職に、約二ケ月前昭和四五年八月頃大阪方面から暴力団員らしい者等七、八名突然来て、他人の土地を勝手に使用してはならん、その土地に置いてある自動車をのけろ、と云つてきた。それから間もなく杉本とか云う者が家を建てはじめた、が、それらの者とは一切関係がないし、これまで全く面識のないものである。

と申し述べた。

宅地上入マよりマ右側に申出の通り標札が建ててある。

この調査は昭和四五年一〇月八日午後三時二〇分前記所有者方事務所に於て前記所有者の長男久保田伸一について行なつたものであります。

尚前記の通り全く見知らないものが契約もなく建築中であるとの申出により賃貸借の契約は認められないので前記の通り報告します。

4 担当裁判官は、更に同月一六日、評価人森川考雄に対し、本件土地の評価命令を発し、これをうけて同評価人は、予め法務局備付の旧土地台帳附属地図(公図)により本件土地の所在を検討したうえ同月二〇日現地に臨み、久保田宅治の案内により、本件土地が右公図上の表示どおり概略前記第一土地に該当するものと判断し、左記理由から、その評価額を四七三万円と評価し、前記公図写しを添付して同日付で評価書を提出した。

対象地はあやめ池近鉄駅より約一、八〇〇米の地点にあり約四米の通路に南面した宅地であつて地上平坦であり排水良く洪水山崩等の虞は少い、附近には点々住宅があり環境良好と思料された。

地上には、目下木造平家建約一〇〇平方米が建築中である。

5 右各報告に基づき、執行裁判所は、同年一一月二日、競売期日を同月二七日、競落期日を同年一二月四日とし、最低競売価格を金四七三万円とする競売及び競落期日の公告をなしたが、右公告によれば、本件土地につき賃貸借関係はないものと表示され、かつ「本地上には杉本某の木造平家建建物が建築中であるとの報告がある」旨の附記がなされている。

6 右競売期日においては、競買申出がなく、競売は不能に終わり、その後最低競売価格を金四二五万七、〇〇〇円に低減して新期日が指定・公告されたが再び競売不能に終わり、同様にして順次、数度の最低競売価格の低減がなされたうえ新期日が指定・公告された。右公各公告には、いずれも「本地上には杉本某の木造瓦葺平家建約一〇〇平方米の建物が建築中であり、同人は右土地を自己所有の如く称している趣旨の報告がある」との附記がなされている。

7 こうして昭和四八年二月一六日付で第八回目の競売期日等が公告(最低競売価格は金二二六万八、〇〇〇円、前記同趣旨の附記がなされている)され、同年三月九日の競売期日には、ようやく原告の他三名の競買申出人があり、金二二八万九、〇〇〇円での買受を申し出た原告が最高価競買人となり、同月一六日、担当裁判官は、所定の要件を審査したうえ原告に対し、本件土地の競落許可決定をなし、右許可決定は、一週間の不服申立期間内に当事者双方及び利害関係人から即時抗告の申立がなかつたため、同月二三日の経過により確定し、四月九日の代金交付期日には、代金交付表に基づき、被告田畑が第一順位で手続費用四万九、〇五七円を、郡山信用金庫が第二順位で約束手形金債権二九万四、二六〇円全額を、更に第三順位で被告田畑が貸金債権に基づき、売却代金残金一九四万五、六八三円のすべてをそれぞれ受領して本件競売手続は終了した。

8 ところが、原告が本件土地と考えていた第一土地の一部には、前記のとおり、杉本(のち杉本仙次郎と判明)が建物を建築してこれを占有しており、同人は、右第一土地が自己の所有する第二土地に他ならない旨を主張してその明渡を拒んだため、原告は、やむなく奈良地方裁判所に対し、本件土地と第二土地の境界確定、建物収去土地明渡等を求める訴えを提起し、右は同地方裁判所昭和四八年(ワ)第一一九号事件として係属した。

9 右裁判において、本件土地の前所有者久保田宅治の相続人・久保田伸一ら四名も原告補助参加人として参加し、原告を援助したが、昭和五一年一〇月二六日言渡された判決は、概ね、以下の理由により原告の請求をすべて排斥した。

① 原告所有の本件土地が第一土地に該当するものとすれば、その北側に存在するはずの杉本所有の第二土地は、現地から姿を消さざるを得ないのに反し、第二土地が第一土地に該当するものとすれば、本件土地はその南側に実際上存在しうる余地がある。このことは、本件土地の更に南側に存在する五五一番一の土地が、本件土地を取り込むような形で地積訂正(増積)されていることからうなずける。

② 字限図・地籍図等の図面は信用することができず、第一土地の占有、管理状況から判断して同土地は第二土地に該当する。

10 原告は、右判決に不服があるとして大阪高等裁判所に対し控訴の提起をなし、右は昭和五一年(ネ)第二〇四五号事件として係属したが、昭和五三年一二月二二日に言渡された同事件判決においても概ね

① 公図等の記載によれば、原告の主張のとおりであるが、右地図は必ずしも正確なものではなく、信用できないこと、

② 土地の状況、占有状況等からすると第一土地は、終戦後ころから周囲をいぶきで囲まれた独立の一区画をなし、第二土地の所有者らは第一土地を右第二土地として、いずれも近所の者に管理等を委ね、又はみずからこれを占有していたのに対し、久保田宅治は近所に居住しながら第一土地につき所有者としての占有・管理を全くしていないこと。

等を理由に原告の主張を排斥し、右敗訴の判決は、昭和五四年一月二七日に確定した。

以上の事実を認めることができ<証拠>中右認定に反する部分は措信し難く採用しない。

二被告国に対する請求について

原告は、本件土地が競落当時既に存在しなかつたこと、しかるに執行裁判所(執行官、評価人も含む)は、過失により右事実を看過して本件競売手続を進行し、もつて原告に対し、右土地相当額の損害を与えた旨主張するので、以下判断する。

1 本件土地の存否と損害発生の有無について

前記認定事実によれば、賃貸借取調にあたつた執行官、本件土地の評価を行なつた評価人は、いずれも本件土地が第一土地に該当することを前提に、各職務を遂行し、執行裁判所も評価人が添付した公図写しを信頼して、その表示どおりの位置に本件土地が所在しているものと判断して本件競落許可決定を下したこと、また原告も第一土地を取得しうるものと考えていたところ、杉本との別件訴訟において、第一土地は第二土地であるとの判断がなされ(厳密には、判決の既判力は、本件土地と第二土地の境界が別紙図面リ・イを結んだ直線であるとの判断に及ぶに止まるが、右二筆の土地の位置関係等を是認する限り、前記のとおり第一土地が本件土地と第二土地のいずれに該当するかすなわち所有権の帰属如何の判断がなされていることが明白である。)、このため右第一土地の所有権を取得することができなかつたことの各事実を認めることができる。

しかしながら、右事実をもつて直ちに本件土地が不存在であるということはできない。けだし、登記簿上特定の表示をされた土地が、現地においていずこに該当するかは、必ずしも判然としているものではなく、登記所備付けの地図やこれに代わるべき資料、土地の現況、その占有状況等によつて特定されるべきものであつて、これにつき紛争が生じた場合には、右紛争は最終的には「訴訟事件」として裁判所の判決により決せられるほかはないところ、本件につき前記別件訴訟によれば、第一土地は本件土地ではない旨判断されたに止まり、本件土地の終局的不存在は未だ認定されているものではないからである。かえつて、右訴訟の第一審判決の理由中には、本件土地は第一土地に南接して(現在五五一番一として表示されている土地の一部に)実在する余地がある旨判断されているのであるから、競売当時既に本件土地は存在しなかつたとする原告の主張は理由がなく、本件土地の不存在を前提とする損害発生の主張もまた理由がない。

2 仮に、第一土地を取得できなかつたこと自体が損害にあたるとしても、以下のとおり執行裁判所には、本件競売手続を進行するにつき、何らの過失はない。

前記のとおり、土地の現地における確定は、本来的な訴訟事項であるから、非訴事件たる競売手続を主催する執行裁判所としては、これについて有権的判断を行なうことはできず、手続を進行するうえで必要十分な範囲内において一応の確認を行なえば足りるものというべきである。

前記認定によれば、本件土地は、登記簿上にも法務局備付の旧土地台帳付属地図(公図)上にもともにその表示があり、さらに本件競売手続の基礎となつた抵当権の他に、二つの根抵当権設定登記がなされているなど、現地における不存在を疑うことは困難であつたこと、登記簿上の所有者及びその長男は、いずれも第一土地が本件土地であると現地において指示・特定していること、前記公図(評価人がこれを写したことが認められる)の表示は、一般に高度の事実上の証明力を有すると解されているところ、これによる限り、本件土地は、所在位置・形状ともに第一土地に酷似し、その同一性につき殆んど疑を容れる余地がないことなどの事実に照せば、裁判所が右各資料に信頼し、本件土地は第一土地に該当するものとの判断を形成し、のちの手続を進行したとしても、右時点における判断としては極めて妥当であつて執行裁判所として一般に要求される注意義務を欠いたものと断定することはできない。

なる程、執行官の賃貸借取調報告書及び鑑定人の評価書中には、いずれも杉本某が第一土地の一部に木造建物を建築中である旨の指摘があり、一見前記判断に対する反対証拠が存在していたかのように解しえないではない。しかしながら、具体的な占有開始状況を指摘していると解される賃貸借取調報告書の前記記載を検討すれば、あたかも暴力団員風の者が突然現われて、正当な所有者たる久保田宅治の占有を排し、一方的に建物建築を開始したかの経緯を読み取ることができ(執行官による右記載は、久保田伸一の申述をほぼ正確に録取したものと認められる。)、前記公図の表示や登記簿上の所有者の指示・特定の信用性と対比して、執行裁判所が敢えて杉本某から事情を聴取するなどの必要性がないと判断して、より詳細な事実調査に出なかつたとしても、相当として是認することができ、右一事をもつてしては前記認定を覆すに足りない。

かえつて、民事執行法の現況調査制度の採用されていない当時においては、不動産の権利関係・事実関係の全体的掌握は、制度上不可能であつたといわざるを得ず、また、前記競売手続の非訟的性格からも、執行裁判所に対し、現地における土地の該当性を判断しこれを特定すべき注意義務までをも認めることができない反面、一般に、競買を申出ようとする者は、自己の責任において目的不動産の位置・形状等を確認し、権利関係につき疑義のあるときはその危険を考慮して買受申出をなすべきか否か、買受価格の如何を決すべきであつたものというべきところ、本件においては、競売期日等の各公告において、常に杉本某が本件土地につき所有権を主張している旨の附記がなされて買受申出人に対する一応の警告が行なわれ、これに起因すると考えられる数度の競売不能と最低競売価格の低減がなされているのであるから、後日、民事訴訟が係属し、目的物が右警告どおり、杉本の所有であることに確定したとしても、これがすべて執行裁判所の過失に基づくものということはできない。そうして執行裁判所としては職務執行上要求される注意義務を尽しているものと認められること前記認定のとおりであるから、その余の点につき判断するまでもなく、原告の被告国に対する請求は理由がない。

三被告田畑利次及び同奈良信用金庫に対する請求について

原告は、本件競売手続は、目的土地が実在しないという違法があり、当然無効であるから、右手続において売却代金の交付を受けた各被告は、右交付金員相当額を不当に利得している旨主張する。しかしながら、前記のとおり、本件土地が実在しないかどうかは未だ確定されていないのであるから、原告の主張はその前提を欠くものとして失当というべきである。

仮に本件土地を第一土地に該当するとの前提のもとに競落したところ、実は第一土地が第三者の物であつたという違法を主張するのであれば、右主張は競売手続中において法定の異議申立又は即時抗告によつて争うべきであつて、競売手続が完結し、これに対する不服申立が尽きた段階に至り、別訴で主張することはできないものというべきである。

(なお、原告としては、民法五六八条、五六三条等により債務者に対して契約の解除をなし、又は代金の減額を請求することができ、債務者が無資力であるときは、代金の交付をうけた債権者に対し、代金の返還を請求することができるが、右は契約の解除における原状回復義務であるから、契約を解除することなく、直ちに債権者に対し不当利得の返還を請求することはできない。)

よつて、原告の被告田畑及び同奈良信用金庫に対する請求も理由がない。

(仲江利政 広岡保 三代川俊一郎)

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